壱号ブログ
雨月のブログです。BLサイト「イチゴウニゴウ。」運営中。
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「芋虫」感想
「 ユルス 」
【あらすじ】時子の夫は、奇跡的に命が助かった元軍人。両手両足を失い、聞くことも話すこともできず、風呂敷包みから傷痕だらけの顔だけ出したようないでたちだ。外では献身的な妻を演じながら、時子は夫を“無力な生きもの”として扱い、弄んでいた。ある夜、夫を見ているうちに、時子は秘めた暗い感情を爆発させ……。
江戸川乱歩は遠い昔、子供向けに書かれた少年探偵団を四、五冊読んだ程度でしたが、テレビでちら見した映画「RAMPO」に物凄い衝撃受けて、いつか子供向けじゃないのも読んでみたいなと思っていました。
で、本日レンタルビデオ屋で何気なく目の端に止まった「乱歩地獄」。
妙に興味をそそられて見ようと思ったんだけど貸出中で……それならちょっと原作を読んで勉強しておこうかななんて思って手に取った次第です。値段も安かったし
そして、最初に読んだのが↑の「芋虫」です。
「乱歩地獄」の話の中で一番興味を惹かれた話だったんですよね。内容もそうだけど、夫の須永中尉役が今凄く気になってる俳優、大森南朋さんだったので(←あ~あ~)
なんて、軽い気持ちで読み始めたのですが・・・・
>ブログweb拍手レス
2016-04-03 19:07にコメントしてくださった方
コメントくださり、ありがとうございます。私は映画キャタピラーは拝見していないのですが、戦争を主体にした描き方だったようですね。私は原作から入った口なので、この作品に対し、戦争をそこまで強く感じませんでした。……いえ、確かにおっしゃるとおり、このような悲劇が起こってしまった大元の原因は戦争であるわけですが、一見すると気持ち悪く醜悪で、浅ましいと思えるものなのに、気がつけば、何だか惹かれてしまう妖しさ、愛おしさ。そこに私は目がいってしまいました。なので、主眼が違うっぽいキャタピラーは見ていなくて……映画を見たら、また子の話の見方が変わるかもしれませんね。
話としては本当に短くて三十ページもありません。
でも内容は物凄く濃密です。
まるでちょっと角度を変えただけで全く別の貌に変わる万華鏡みたいな感じ。
容姿の描写を読む限り、中尉は世にも醜い芋虫の化け物そのものなのに、酷く可愛く思えたんですよね。
そして……
「ほほほほ、又やいているのね。そうじゃない。そうじゃない」
「ドコニイタ」
「鷲尾さん(この夫婦を世話してくれている、中尉の上官)の処。分かっているじゃないの。他にいくところがあるもんですか」
「三ジカン」
「三時間も独りぼっちで待っていたって云うの。悪かったわね。もう行かない。もう行かない」
それでも拗ねている中尉に時子さんが口づけてみせると、中尉は安堵したように目を細めて、原型を留めてない口で笑う。
このシーンはなんか凄く微笑ましかった。色んな軋轢やしがらみ、葛藤に押しつぶされそうになりながらもちゃんと二人の間には愛情があるんだと思えて。
それでそこから裏シーンに突入する訳ですが……。
直接的表現は全くないのですが、意味深な言葉から想像できる光景は実に卑猥で淫らで倒錯的です。
片田舎の小さな家にたった二人、世間から切り離され閉じ込められたという圧倒的閉鎖感がいっそう、そう想わせたのかもしれません。
自分の生きているこの小さな世界で二人きり。お互いに相手だけがすべて、なんてね。相手に溺れるしかないじゃないですか。
そしてある日。考えことをしてるのか何なのか、長いこと自分を見ようとしないで明後日の方を見ている中尉が面白くなくて時子さんは突然中尉に跨って無理やり顔を向けさせます。すると突然のことに怒ったのか、中尉がいつまでも睨んでくるものだから、ついカッとなって、彼女は中尉の目を潰してしまいます。
ここは介護疲れでどうかしていたんだとか何だとか色んな見方が出来ると思うんですが、私はただ単純に彼女は夫を完璧に自分のモノにしたかっただけのような気がしました。
恐ろしい話ですが、「私を見ないあなたの目なんか見たくない!」みたいな…。
それだけ、彼女には夫しかいなかったんだと思います。
でも、何も聞こえない、何も言えない、両の手足もない。その上に目も見えなくなってしまっては……もう地獄以外の何物でもない訳で。
庭の古井戸に向かって這っていく夫を見つけても、とっさに時子さんたちが止めることが出来なかったのは、それがよく分かっていたからじゃないんでしょうかねぇ…。
とはいえ、「ユルス」と一言書き残して逝ってしまった中尉が切なくてしょうがありません。
これは時子さん視点の話なので、彼が何を考えていたのか全く分からないままですが……是非とも乱歩先生に中尉視点の話を書いて……いや、それは野暮ってものなのかもしれませんね。
最後は自ら命を絶ってしまったけれど、中尉も妻を心の底から愛していた。
私はそう思うことにします。
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