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死ねばいいのに(ネタバレ注意)

「 君は人殺しだよ 」


死ねばいいのに

<あらすじ>
死んだ女のことを教えてくれないか―。無礼な男が突然現われ、私に尋ねる。私は一体、彼女の何を知っていたというのだろう。問いかけられた言葉に、暴かれる嘘、晒け出される業、浮かび上がる剥き出しの真実…。人は何のために生きるのか。この世に不思議なことなど何もない。ただ一つあるとすれば、それは―。


なんかインパクト強烈な題名に惹かれたのと、「そういやまだ京極先生の現代物って読んだことなかったな」という理由で購入しました。

京極先生の現代物は初めてだったのでどんなもんかと思ったんですが、やっぱり何処か古めかしい。登場人物たちは結構砕けた言葉遣いだし、現代の世相がよく描写されてはいるんですが、小難しい漢字を多用(京極堂、時代物程ではないけど)していたり、言い回しが妙に堅苦しく理屈っぽくて、もったいぶってる。そんなとこが何とも京極先生らしいな、と。
とはいえ、先生お得意のお耽美、幻想描写がなかったので、結構雰囲気は違いましたけどね。

で、感想としましては……

色んな意味で読者に優しくない話だなと言うのが率直な感想です。
京極堂シリーズの何百ページにも及ぶ蘊蓄ページとは別の意味合いで、本当に読み進めるのが辛い。

この話、何者かに殺された鹿野亜佐美のことを教えて欲しいと「彼女とはたった四回逢っただけの知り合い」と名乗る渡来健也という青年が一章ごとに彼女の関係者(不倫相手、隣人、恋人、母親、担当刑事)を訪ねていくというものなのですが……

渡来が彼女の関係者に会いにいく
→最初は警戒するものの話し始める関係者
→でも、気が付けば彼女の話から自分語りへ
→周囲への不満大爆発「みんな自分勝手な役立たずばかり!」「誰もこんなに頑張ってる自分を認めてくれない!」
→関係者「死ぬ程辛い」「抜け出したいけどどうにもならない!」

→渡来「じゃぁ死ねばいいのに」(決め科白)

→関係者「そんな! 死にたくない!」
→渡来「じゃぁ文句言うな」(ここから渡来君のお説教タイム)
→関係者

全部で六章ありますが、とにかくこのパターンの繰り返しです。なので中盤あたりからちょっとだれる。
その上、この関係者たちが……これがどいつもこいつも超ネガティブ思考&何でもかんでも責任転嫁な人ばっかりで、読めば読む程鬱になるわ、イライラするわ……読めば読む程不快感ばかりが蓄積されていきます。

まぁでも分かるんですけどね。
この不快感の中に自分の隠したい醜い部分が暴かれていると思うそれも含まれていると。

とはいえ、このあたりはあらすじや煽り文句で大体察しはついていたのでそこまで驚くことはなかったんですが、表題「死ねばいいのに」って言葉には裏切られました。

この言葉、読む前は痛烈な皮肉……例えるなら、今にも息絶えそうな瀕死の人間にトドメを刺すような残酷な意味合いのものだと思っていましたが……。
「死ねばいいのに」と渡来が言うと、相手は必ず「死にたくない!」と言うんですよ。すると渡来はこう続ける。「じゃぁ生きていなよ」。
これはもしかしたら最大の励ましの言葉なのかもしれないですね。というかこれ以上掛ける言葉がない。現にこの科白を吐くまでに渡来は色々と励ましの言葉を掛けてるんですよ。でも全然届きやしない。

渡来はきっと、こう言えば相手は絶対「死にたくない」と答えると分かってて言ってるんでしょうね。それが回を重ねていくごとに分かるので、この言葉には妙な温かみを覚えました(かと言って、これによって相手が救われる訳でもないんですが…)

そして最後には愚痴っても悪口言っても不満たらたらでも、それでも懸命に生きてる。だからクズなんかじゃ決してない。という肯定でもって締めくくられる。いいですね。人間の綺麗さばかりを強調して人間愛を謳うより、こっちの方がよっぽど愛を感じます。

しかしそうしていけば行く程、殺された女性・亜佐美の存在が恐怖へと変わっていきます。

だって現状に不満たらたらの周囲以上に不幸な境遇でいるはずなのに、この亜佐美だけは他の人間と違い、一切愚痴りませんし、他者に悪口をいうこともありません。

それどころか、「みんな優しくていい人、私とっても幸せ」って言って、「死にたい」ともいう。
ことごとく周囲と真逆です。その異質さが周囲の人間臭さが濃厚になっていけば行く程際だっていく。

そうしてラストの渡来の独白。背筋がゾゾーっときます。

京極堂の言葉で言うなら、渡来は恐ろしい憑き物に憑かれていたんですね。
だから亜佐美の人間臭い一面を探し歩き、「俺よく分かねーけど」とか「馬鹿だけど」と言いながらも関係者を糾弾し、「死ねばいいのに」と言わずにはいられなかった。
そうやって考えると渡来は関係者に会えば会う程、亜佐美への恐怖心が膨れ上がっていってたのかもしれないですね。この方、自覚はなくても聞き手の天才だから余計に……。死にたいと思ったことはないにも関わらず死刑にしてくれなんていうあたり、その恐怖心がよく表れていたと思います。

だからラストに投げかけられた言葉で、ようやく憑き物が落ちたんでしょう。
嗚呼、自分が殺した相手はちゃんと人間だったんだと。

で、読み終わって思うのはやはり亜佐美のこと。
結局彼女は何だったんでしょう? どうして渡来に何度も自分語りをしたのか。彼女が思う幸せの定義って何だったのか。何を思って平然と「死にたい」と言ったのか。
あれこれ想像してしまいます。でもどう結論づけても間違っているような気がして……

「分からねぇから怖ぇんですよ」(by 又市)

まぁもうこれに尽きますね、亜佐美は……。

ということで久々の京極作品でしたが、最初はとても読み進めるのが億劫でもやはりラストの畳みかけ、盛り上げッぷりはお見事でした。
読むと自分の後ろめたさをグサグサ攻撃されまくって精神的に疲れる話ではありますが、読んで損はなかったです。

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